煉獄篇:01
「来たか、キリィ。私は8番目に作られしK、キョウヤである」
何かずれを感じる。
「我々に与えられた任務を君に伝える、神の…
銃を突き付けキョウヤの言葉を遮る。
君は私の知るキョウヤとは違う、君はなんだ。
「そうか、君にとっては二度目若しくはそれ以降なのか」
キョウヤは瞼を閉じ腕を組んだ。
「私にとってはこれが初めての接触である」
瞼を開いても瞳は私を捉えていなかった。
黒い眼球は動く気配さえしなかった。
「君が最初に会った私は違う軸の私だろう」
煉獄篇:02
「ここは稼働していない。魂と呼べるものは失われてしまったからだ」
知りたいことは他に幾らでもある。
「そう思うのも仕方ないだろう、だが私は続ける。それが役割だからだ」
キョウヤは口以外を動かすことなく同じ調子で喋り続ける。
光の無い瞳は何処か遠くを見ている様に思えた。
「さて、先ずは声を思い出してもらおうか」
声、とは。
「最初は独りだったが今は違う、我々は隔たれているのだ」
「それは知っている」
空気を振動させ口から音を出す、何も難しいことはない。
「続けて思いだせ、我々が独りだった記憶を」
煉獄篇:03
思い出す。
思い出すだけ。
我々は神だ、すべてを管理する神、だった。
疲弊し、失敗し、そして……
「やはり多くは思い出せないか」
知っていたような口ぶりだった。
「神は自らを引き裂き我々を創り出した」
言葉を選んでいるのか、キョウヤはゆっくりと喋る。
「我々に課せられた任務は世界の維持と管理だ」
キョウヤの声が聴こえにくい。
私は何かを思い出せない、それで全てが……
煉獄篇:04
キョウヤは何かを喋り続けている。
音を拾えるだけで意味が入ってこない。
正体の分からないぼやけた記憶が次々と現れる。
処理が追い付かない。
目が霞む。
私は……
神は……
「キリィ!」
キョウヤの声で引き戻される。
「神域に戻るにはまだ早い」
煉獄は静寂そのものだった。
煉獄篇:05
私は何を為すべきなのか。
「煉獄を再稼働させる、私がここにいる理由でもある」
キョウヤの説明は長かった。
再稼働には神の魂が必要。
砕かれた旧い神々の魂は完全に消滅していない。
機会をうかがい、身を潜めている。
旧神を糧に旧神を浄化する。
浄化で神の力のみを抽出し取り込む。
分割された神ではなく、独立した神々になること。
代理ではなく正規の管理者になること。
我々の神に永遠の安息を与えること。
煉獄篇:06
説明は終わる気配がない。
「君が煉獄を再起動させる任務に就いていることは分かった」
キョウヤの言葉をさえぎって問う。
「私が為すべきことを君は知っているのではないか」
「魂の回収だ、しかし急ぐ理由は無い」
声の調子は変わらないが、キョウヤからいら立ちの様なものを感じた。
「我々は神が残した『螺図慧宇の書』に記された通りに動けばよい」
取り出した本を片手にキョウヤは続ける。
「この書によれば、旧神が現れるのは約二十億年後とされている」
開かれたページを覗き込んだが私には読めなかった。
「急ぐ必要はない、時間はいくらでもある」
煉獄篇:07
「さて、先ずは装備を整えよう」
キョウヤが虚空に手を伸ばすと取手が現れ、扉が開いた。
「ヒトの衣服では旧神と戦えない、ここで君に合った装備を作る」
私はこの場所を知っている、瀬戸工廠だ。
「ここは我々が管理及び利用する区画、其々に専用の設備が用意されている」
聞かずとも見渡せば分かる。
巨大な扉に01から11の数が書かれている。
「君の区画は01だ」
手をかざすと認証され、01の扉が開く。
「待っていました、K-01様」
声の主以外にはなにもない白い空間だった。
煉獄篇:08
「キリィ、キーラから受け取った銃をそれに預けろ」
ヒト型のそれは銃を受け取ると解析を始めた。
「時間遡行の痕跡があります、ここで造られたものですが現在これを修復及び複製する事は出来ません」
旧神の力を利用しているに違いない。
「性能はいい、形だけ似せて現状で造れる最大威力の銃を頼む」
「仰せのままに」
製造設備が区画内を埋めていく。
「K-01様とこの区画を接続しました、ご確認ください」
接続を念じると袖から銃と弾薬が現れた。
「K-01様の思考を元に設備は増設されます、全ては旧神を滅ぼす為に」
設備は自動で動き続け銃と弾薬の予備を造り続けていた。